先日、高校3年生のRくんが塾を卒業しました。
秋に進路が決まっても、彼は塾で英語を学び続けました。今のRくんは、本当にイキイキとしています。塾での学習は真剣そのものですし、学校生活は充実し、ご家族との関係も大変良好です。
しかし、中学生の頃の彼は違いました。心を閉ざし、さまざまなことに向き合うことを避けていました。そんなRくんが変わることになったきっかけは、お父様の「勇気あるご決断」でした。
正論が届かない日々
コロナ禍の中始まったRくんの中学生活。休校の間はとても元気でしたが、学校が始まると次第に元気が失われていきました。Rくんにとって、中学校は大きな苦痛でした。
登校を嫌がるばかりか、勉強にも向き合おうとしませんでした。テスト前でも勉強せず、ひたすら大好きなゲームに明け暮れました。
そんなRくんに対してどう接するべきなのか、お父様はとても困惑されていました。
「学生なんやから、学校へ行くのが当たり前や。」
「嫌なことでも我慢してせなあかんこともある。」
お父様のお言葉からは「Rを正さねば」という焦りを感じました。父としての責任を果たそうとされていたのだと思います。
お父様は、本当にRくんのことを思って必死に考えておられました。知人の方々にも相談され、塾にも相談にお越しくださいました。
それでも、お父様の想いはRくんには届きませんでした。
届かないばかりか、Rくんとの関係は悪化の一途をたどりました。お父様に物を投げて反抗し、感情が抑えきれないほど激しくぶつかることもあったそうです。その結果、Rくんはお父様を避け、やがて部屋に閉じこもるようになっていきました。
当時のRくんにとって、塾は数少ない「安心して過ごせる場所」でした。そのためか塾を休むことは無かったのですが、Rくんの表情からは生気が失われ、いつしか塾でも笑うことがなくなりました。
そしてRくんが漏らす不満の言葉は、どんどん過激なものへと変わっていきました。その言葉は、学校に対してであり、またお父様に対してでもありました。
一向に変化を見せないRくんを前に、お父様は何度も相談にお越しくださいました。私たちが一貫してお伝えしてきたのは、「自分で決められるように支援することが何より大切である」ということです。
そんな提案に対して、お父様がおっしゃったお言葉がすごく心に残っています。
「頭では分かるんです。でも、心がついていかないんです。」
お父様が求めておられたのは、単なる解決ではなく、ご自身が心から納得できる答えだったのだと思いました。そのためには、お父様ご自身がその想いや迷いに向き合われる時間が大切なのだと感じました。
何度もお越しになられる中で、お父様のお考えが少しずつ変わっていくのを感じました。
大きな転機
転機が訪れたのは、Rくんが中学3年生になったばかりの春のことでした。ただでさえ学校が嫌いなのに、新しい担任との相性が最悪という絶望的な状況でした。そんな中、お父様はある大きな決断をされました。
「1ヶ月、学校休んでみるか?」
学校に行きたくないというRくんの気持ちを、受け止められたのです。そればかりか、当時の彼が目指していたプロゲーマーへの道を支援する申し出までされたのです。
実はその数日前、お父様は塾でこうおっしゃっていました。
「嫌なことをなんぼやらしても、良いものを築くことはないやろうなって思うんです。」
それは、これまでのRくんの姿と、お父様ご自身の人生経験の中から、少しずつ感じてこられたことでした。
「やりたいことができるように機材をそろえてやろうと思うんです。どんなものが欲しいか聞いたってもらえませんか。」
そして、遠くを見ながらこうおっしゃいました。
「もしかするとあいつの生き方は、人とはすごく違うものになるかもしれない。でも、20年後に振り返った時に、『しょーもない人生やったな』と思うよりも、『やることやった人生やったな』と思う人生を選ばせてあげたいんです。」
最後に、こう付け加えられました。
「彼と一緒に、人生を悩んでいるんです。」
Rくんのその後
Rくんはお父様の提案に乗って、学校を1ヶ月休むことにしました。毎日をどう過ごすのか、それもRくんが自分で決めました。
当初はゲーム三昧でした。しかし、不思議なことにRくんは次第にゲームをしなくなっていきました。お父様に認めてもらえたことで、Rくんの中で何かが満たされたのかもしれません。
そして1ヶ月後、Rくんは自分で登校することを選びました。相変わらず中学は好きではなかったようですが、以前のように拒絶することはありませんでした。
その後、高校生活は一度も嫌がることなく、充実した日々を過ごしました。なかなか向き合おうとしなかった勉強にもしっかり取り組むようになりました。特に重要だと感じる英語には懸命に取り組み、洋画を英語で観て学ぼうとしたり、アメリカへの旅にチャレンジしたりもしました。
Rくんには、一つの夢ができました。映像制作やコンピュータ・グラフィックスの世界で学びたい。そう思うようになったのです。ゲームに没頭した日々は、決して無駄ではなかったのです。
最後に
「1ヶ月、学校休んでみるか?」
あの日、Rくんの心は変わり始めました。それは、学校と距離を置けたり、好きなことに打ち込めたりしたからかもしれませんし、それを「自分で決める」ことができたからかもしれません。
しかし、それ以上に大きなものがあったのではないかと思います。それは、「大好きなお父さんが、自分を丸ごと受け入れてくれた」という大きな安心だったのだと思います。
子どもの「今」を親が丸ごと受け入れたとき、それは子どもが自分の足で未来へ踏み出すエネルギーとなる。その力強さを、私たちはRくん親子から教わりました。
高校生になってから、お父様が塾へ相談に来られることはなくなりました。ただ、最後の懇談会には久々にお越しくださいました。
「最近あいつと、須磨までツーリングに行ったんですよ。」
中学時代、あれほどすれ違っていた親子が、今は肩を並べて風を切って走っている。お父様が勇気を出してありのままのRくんを受け入れたあのご決断がなければ、この光景はなかったかもしれません。
今、もしお子様との関係に悩み、出口が見えないと感じているのでしたら、どうか一人で抱え込まないでください。私たちは学習だけでなく、そんなご家族の歩みにも寄り添える場所でありたいと願っています。もしよろしければ、私たちにもお聞かせください。

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