続・生徒の塾からオカンの塾へ

どんな塾?

「親の塾ですね」

最近、そのように言われることが増えてきました。

2年前、「生徒の塾からオカンの塾へ」という記事を書きました。当塾のサービスが、生徒に向けたものから、親御様に向けたものへ変わってきたという話でした。(その記事はこちら。)ただ、それは親御様の役割の一部を受託するという意味であって、親御様に何かを教えるという意味ではありませんでした。しかし、その後も継続して改善に取り組み続けた結果、親御様に教えるという、本当の意味でのオカンの塾になりつつあるようです。

『成績が振るわないのは、分からないから。』

以前、私たちの指導の前提はこのようなものでした。そして、「分からない」を「分かる」に変えるため、あらゆることをしました。徹底的に分かりやすく教えれば良いだろうと考え、アニメーションをふんだんに盛り込んだ電子教材を制作し、何年もかけて磨き上げました。また、多くの宿題を出し、それを徹底させるために、毎回のように小テストを実施しました。小テストがクリアできない生徒には、それがクリアできるまで居残りで勉強させました。さらに、生徒たちが歩みを止めないよう、学習のペースは完全に講師がコントロールしました。定期テストでの成績向上のためにテスト対策プリントを作り、きちんとできるまで徹底させました。何とか生徒を動かそうと、ちょっとしたご褒美を設けたり、競争を作り出したりもしました。

その結果、生徒がどんどん受動的になっていったのは以前の記事に書いた通りです。どうすれば学べるのかということを自分では考えなくなり、塾に依存するだけになっていきました。また、短絡行動がはびこりました。宿題を形だけやって済ませたり、チェックをすり抜けようとしたり、答えを覚えて小テストをクリアしようとしたり、カンニングをしたりします。そういった不正をさせないためには、さらに管理を強めなければなりませんでした。すると、生徒は巧妙にそれを回避する術を考え、いたちごっこが繰り返されました。授業そのものは分かりやすいと好評ではあったものの、だからと言って生徒が勉強するようにはなりませんでした。そして、私にとって忘れられない出来事が起きました。

「え?まだテスト対策プリントもらってません。」

ある定期テスト前のことです。わたしはある生徒にテスト勉強は順調かと尋ねました。すると、彼はこのように返事をしたのです。彼にとってのテスト勉強とは、塾のテスト対策プリントをすることだったのです。彼は何も考えていないのです。自分にはどんな勉強が必要なのか。どんな段取りで勉強するのか。そういったことを何も考えず、ただ私たちの言う通りにしていただけなのです。自分の発言に何の疑いも持たず、まっすぐな目で私を見る彼の姿に、自分の犯した過ちの大きさを感じました。「変わらなければ。」そう強く思いました。

変わることを決意したものの、当時の私たちには何が問題なのかが分かりませんでした。それならば、勉強の専門家としてまずは私たちが学ぶべきだ。そう考え、講師各々がテーマをもって、さまざまなことを学びました。勉強法について、子どもの心理について、動機づけについて、他にもコーチングや幼児教育など、手がかりがありそうだと感じた様々なことを学びました。学んだことを講師が互いに授業することによって、理解を深める機会もつくりました。また、学んだことが本当に正しいのか、現場での観察も続けました。さらに、自主性を失わずにしっかりと勉強に向き合う生徒の親御様からの聞き取りも重ねました。

理解が深まる中で、自分たちがいかに不勉強であったかを思い知らされました。指導の拠り所としていた世の中の常識、業界の常識が、科学的な根拠の無いものだということを知りました。「塾とはこういうものだ。」私たちのその思い込みに基づく指導が、生徒たちの自主性ややる気を奪う原因の一つだったのです。薄々は感じていたものの、それが科学として明らかにされている事実を知ったときには大きな衝撃を感じました。私は教育の天動説に踊らされていたのだと思いました。

『成績が振るわないのは、分かろうとしないから。』

現在の指導の前提はこのように変わりました。つまり、私たちが取り組むべきは、「分からない」を「分かる」にすることなのではなく、「分かろうとしない」が「分かろうとする」に変わるようにしていくことなのだと考えました。そもそも、分かろうとしない生徒に何を教えても分かるようにはなりません。逆に、分かろうとする生徒は自分で「分からない」を「分かる」に変えていきます。 無理やりさせなくても、自分から理解を試み、練習し、確かめます。ですから、「分かろうとしない」が「分かろうとする」に変われば、あとは生徒が多くのことを自ら解決するようになるのです。1から100まで全てを与えなくても、足りないものだけを補ってあげれば良いのです。

そのような改革を進めるなかで、不十分なものがあると感じました。それは、親御様のご協力です。私たちの中にあったやる気を奪う原因を排除しても、ご家庭にそれがあれば、生徒は変わらないのです。そこで、ある時期から順次親御様への説明を続けてきました。それに対して様々なご反応がありました。大きなショックを受けられる方や、これまでの接し方を悔やまれる方が多くいらっしゃいました。逆に、「それで良かったんですね。」といった安心の声もありました。そんな中で、冒頭の言葉、「親の塾ですね」とのお言葉をいただくことが何度もありました。

今、塾の雰囲気は以前とは全く違います。多くの生徒が嫌々勉強させられていた以前と違い、進んで勉強を改善しようとする生徒が多くを占めるようになりました。そんな自主的な生徒をさらに増やすため、私たちはさらなる勉強と改善を続けていこうと考えています。そして、オカンの塾としての道を、お子様の幸せを願うオカンの皆様と共に歩んでいきたいと考えています。

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